「靴虫と槍兵」より。
中庭の花壇では、花々が雪を乗せてもなお鮮やかに咲いていた。
この土地の花々は魔術との相性がいいそうで、リーエンベルクは真冬でも花が絶えない。
ネアが足を止めた花壇は色鮮やかな三色菫とジャスミンに似た花が咲いていて、そのどちらも、惚れ惚れとする程に満開になっている。
「ほら、ディノ。こんな風に雪の中でお花が咲いていると、全然違う世界みたいですね」
「ネアのそういうところは可愛いね」
「私はこういうものが好きなのです。雨や雪や、嵐や雷に霧、そして虹。花々や季節に時間の移り変わりで、見慣れた世界が、ふと見慣れないものに見える時間がとても好きなのですよ」
真冬でも花が耐えない雪国。
どこにも行けず、雪の中を元気に散歩する体力もなかったネアハーレイの、叶う筈のない憧れだったのだ。
前の世界でのネアちゃん心身ともにボロボロ。
そしてしっかり魔物が祝祭を司っているからこその
「祝祭の送り火の魔物が失踪したみたいだから、今年も延期されるんじゃないかな」
「………延期、………されてしまうのですか?」
「送り火の魔物の晴れ舞台は、一年に一度しかないから、時々、それを引き延ばす為に逃げてしまうようだよ」
イベント延期のお知らせ。
その魔物をつかまえるまで、延々と前夜祭。なんだそれは。
「戻らないことには、季節も止まってしまうのですよね?」
「季節や祝祭の魔物は、きちんと順番を待つからね」
しかも季節まで止まってしまう。
なんか本当に異世界なんだなぁ。
子供のようだと感じながらも、クリスマス延期のお知らせにたいそう落ち込んだネアは、悲しみのあまり、昼食でオレンジと鴨の前菜を二度もお代わりしてしまった。
現在、送り火の魔物の脱走により、イブメリアは無期限延期中である。
オレンジと鴨の前菜。
もうね、美味しそうですよね。
鴨とオレンジで検索すると、たくさん出てきたので、スタンダードなのですね。
そして簡単なレシピも多々。
甘い柑橘とお肉ってなんだかオシャレだし、上級者的な感じがします。