「ガゼットの大鷲城」
「ウィリアム」
「薔薇とヤドリギ」
●ガゼットの歴史
- ガゼットの王城は、大鷲城と呼ばれていた。
- かつてここが大国の一領土である只のガゼットであった頃は、国境線の要所として栄えた土地。
- 高台にそびえる尖塔が、木に止まった大鷲に似ているからそう名付けられた。
- 南方からの香辛料の中継地として、また、続く北方の大国ヴェルクレアからの品物の経由地として、森と川に恵まれたこの土地は栄えた。
- 国境の検問で収益を得て、珍しい品物が国内で最も新鮮な状態で手に入る。
- また、中央からの目も届きにくい国の最端。
- 結果、不相応な自由と財力を手にしたガゼットは、地方の独立運動に便乗する形で独立した。
- 先の独立戦争で最も被害の少なかった土地が、ここガゼット。
- しかし、苛烈を極めた独立戦争で疲弊した周辺諸国の目は、唯一豊かさを保持したガゼットにすぐに向けられる。
- そして、侵攻が始まった。
●ネアの欲しい幸せ
ひとつしかないもの。
(そうか、これはまたそういうものか)
ずっと昔、ネアの手から喪われた一つしかないもの。
それと同じ、そして全く違う、一つしかないものだ。
「………ディノ、私は、これからも特別なことはしないでしょう。私が欲しい幸せは、誰もが持っているような日常の幸せです」
慈しむ者がいて、ご飯を美味しく食べて、豊かに眠る。
働いて、買い物をして、移りゆく季節の色を丁寧に楽しむ。
そんなものだけ。
でも、それこそが最たる強欲だからこそ。
「国を守りたいとも思わないし、国を壊したいとも思いません」
ここに来て、見慣れない悲劇の一端を見てしまった。
だからこそ、身に馴染みのない恐れに触れれば、失いたくない未来があるからこそ、恐ろしいのだと知った
「でも、あの私の大切なあの巣ばかりは、絶対に失いたくないのです。……だから、そう思う強欲さを貫くとき、もしどこかで私があなたを失いそうになったら、それをきちんと止めて下さいね。一つしか選べない場面がきたら、私は私の魔物を選びます」
「わかったよ、ご主人様」
ぱっと微笑みを深めた魔物は、とても美しい。
こんなたいそうなものを、自分の手で守っていいのかと思うと、ネアは息が止まりそうになる。
(………大事にしよう。最後までずっと)
この後の展開がいつも通りの安定のコント。
ネアちゃんの欲しい幸せは、私の幸せと解釈一致。
慈しむ者がいて、ご飯を美味しく食べて、豊かに眠る。
働いて、買い物をして、移りゆく季節の色を丁寧に楽しむ。
そんなものだけ。
でも、それこそが最たる強欲
普通が一番難しく、維持も難しく。そして一番尊い。