「誘惑と秘密」より。
巻き込まれる選択の魔物(アルテアさん)
「どうした、ウィリアム。珍しい場所にいるな」
本日の選択の魔物
- 密やかな毒混じりの美しい声。
- 漆黒のスリーピース姿に小粋なカシミヤ地のような濃灰色のコートを羽織っている
- 夜会帰りのような優美な服装だけだと人目を引く美貌を、仕立てのいいコートの使い込まれたような品の良さが上手に街並みに溶け込ませている。
- コートの前を開き、漆黒の三つ揃いを見せて黒いマフラーを優雅に流しかけて杖を持っている
- 不穏な美貌
さすがにオシャレですね。
「アルテアさん!」
「おい、何でお前が連れなんだよ」
「……アルテア、本当にいいところに!正直、俺一人で自信を無くしかけていたところでした。ネア、助っ人が来てくれたぞ」
「はい!アルテアさん、お世話になります!」
「……おい、何で二人ともそんな虚ろな笑顔なんだ。それと、勝手に俺を混ぜ込むな」
「アルテア、あなたなら各方面の色事に長けてますよね」
真摯な問いかけをしたウィリアムに、アルテアは片方の眉を持ち上げ、悪意が滲むような艶やかな微笑みを深める。
「ほぉ、どうした?その手の堕落を試してみたくなったのか?」
「俺では経験不足なので、力を貸して貰えますか?」
「お前みたいな男が悪徳に溺れる様も愉快そうだが…」
「よし!ネア、許可が出たぞ!」
「わかりました。逃げない内に行きましょう!」
「ウィリアム……?お前、拘束用の高位魔術まで展開してるだろ?!そこまでして何を……」
ここからは、もう、コント。
「………おい、これまさか」
「俺と違って、あなたならこれくらい経験があるでしょう?」
「あるにはあるが、個人的な範囲だ。複数人で見世物として楽しむ趣味はない」
「ウィリアムさん、アルテアさんが経験者である言質が取れました。これは頼もしいですね!」
「ああ。良かったな、ネア」
「はい!!」
「勝手に俺を巻き込むな!!」
「アルテアさん。我々はもう、何も失うものがないんです。諦めて下さい」
「そうですよ、アルテア。仮にも俺より年上なんですから、大人しく覚悟を決めて下さい」
「ウィリアム!拘束を解け、今すぐにだ」
「さて。アルテア、少し黙っていて下さいね」
やがて照明が落ちて舞台が始まると、ネアは早々に心が死んだ。
最初は馬鹿にしたようにひやかしていたアルテアも、途中から虚ろな目になってゆく。
ウィリアムはネアの耳を塞いでやることに両手を使ってしまい、結果、誰よりも心が損なわれたようだ。
そう言えば自分は魔物だったと思い出したアルテアが視覚と音の防壁魔術を施すまで、三人は多くのものを失う羽目になった。
「ウィリアムさん、記憶を消して下さい」
「すまない、もう一度言うが一人にしないでくれ」
「アルテアさんが傍にいますよ」
「アルテアはあちらの経験者だ。心の支えにならない」
「待て、何で俺を向こう側に分類した?そもそも何でお前達は、あんなものを観ようと思ったんだ…」
向こう側に分類される選択の魔物。
3人でなにやってんだろうか。
「………何でこっちに振り切ったんだ。講義を求めるなら、せめて心の医者にしろ」
「……あ、」
「………成る程」
心の医者ってなると、ディノがかなりお労しく感じられるのは何故だろう。
本日の3人でのお食事
- 町のオステリアのような気軽な店で魚介のパスタ。
「……お土産ですよ」
困り果てて、各自持ち帰らせられた赤い縄を渡してみたが、ディノは不思議そうに目を瞠るだけだった。
赤い縄をディノに渡したのは、いいのか、悪いのか。
その後、あの縄はディノのご主人様からのプレゼントボックスに仕舞われていたが、使う日が来ないことを祈るばかりである。
ネアちゃんは無自覚なだけで、女王さまの資質がある。
幸い、あまり間を空けずにまた会おうとウィリアムが提案し、アルテアも頷いていたので、死地を共にしたコンシェルジュと外部協力者との絆はとても深まったようだ。
ディノを除いた仲良しお食事会が結成されてしまったので、そりゃ「浮気・・・」と言われてしまいますね、と、ちょっとディノが可哀想可愛い状態になってしまいました。