「茹で肉の魔物と付け合せ妖精」より。
もう、タイトルがすごいです。
私の中ではとても記憶に残ってしまってる回です。
茹で肉が魔物で、付け合わせが妖精。
ウィームにはとある伝統料理がある。
ブイヨンで柔らかく煮込んだ上等な牛肉をどすんと配置し、そこに様々なソースを付け合せていただく宮廷料理だ。
伝統的な宮廷料理なので、ネアも既に何度かお目にかかったが、正直相当な量が各自に与えられる。
更に残念なことに、玉ねぎとほうれん草の塩味のソースと、サワークリームと林檎と玉ねぎの甘めのソースが一般的で、旅半ばで味にも飽きて力尽きる者が多い、高級料理だ。
故に、力尽きる者達は皆、様々な思いと共に高価なお肉に別れを告げる。
あまりにも無念の思いが凝り過ぎて、茹で肉の魔物は生まれたらしい。
とりあえず、ウィーンの伝統料理の肉料理。
牛肉と野菜のブイヨン煮込み「Tafelspitz(ターフェルシュビッツ)」
牛ランプ肉の塊を弱火で2時間ほど茹でてから、たっぷりの野菜を加えてさらに30分ほど煮、最後の10分は輪切りにした骨髄を加える。できあがったら、スライスした肉と野菜をスープごと銅鍋で提供するのが専門店『Plachutta (プラフッタ)』のオリジナルスタイル。食べるときはまず野菜の旨味たっぷりのスープを味わう。次にとろとろになった骨髄を塗ったパン、そして肉にりんごとホースラディッシュのソースやシブレット入りのマヨネーズを添えて。付け合わせは炒めたじゃがいも、ほうれん草のクリーム煮が定番。元はマリア・テレジアの時代に、年老いて痩せた牛を美味しく食べるために考え出された料理で、後に皇帝フランツ・ヨーゼフが好んだことから広く知られるようになったという。(ターフェルシュビッツより)
牛肉料理の王様だそうな。
実はくすまも以前は、そんなにオーストリアや首都ウィーンにはあまり興味がなくて、「音楽の都」なのだね、ぐらいだったのですが、くすまも以後は、現金にも、俄然興味が湧いて、今に至っております。
茹で肉の魔物
- 小粒のジャガイモ大の生き物
- 小さいからと言って侮らない方がいい、それなりに厄介な魔物
- 噛み付いた相手の肉を喰らう魔物
- 触れた時に腐食液を出すから、時々人間の子供は食べられてしまう
- 付け合わせの妖精が近くにいれば、まだ大人しい
付け合わせの妖精
- 茹で肉の魔物を下僕とする妖精
- 緑色の草みたいな何の価値もない妖精
- 茹で肉の魔物にだけは有効
本日のアルテアさん
- 本日の装いは黒にも見える深い葡萄酒色のスリーピースで、クラヴァットの巻き方を少し工夫して抜け感を出している。
- シャツは上着を脱いだ袖口から見えるボタンの配置などからかなり手の込んだ作りの高級品のようだが、光沢のない綿素材で光の加減で薄く色味を変えた白のストライプが見える生地。
- 夜会などでも充分に着こなせる天鵞絨のスリーピースが、このシャツとの組み合わせでぐっとカジュアルになる。
- 相変わらずの洒落者。
- 髪色はそのままだと大騒ぎになるので勿論黒髪に擬態
ウィリアムさんは栗色の髪に擬態。
「唐辛子と、それは何だ?」
「お魚を発酵させて作った、塩辛い調味料ですよ。このお肉は、ソースの味がもったりするから飽きるんです。辛味にこれを足すと、いつまでも食べれる素敵な味に変わりますよ」
店にこの調味料があると他の料理で知ったので、ネアはこの肉料理を頼んだのだった。
余分な味付けがない分、即席でエスニック化するのでとても素晴らしい。
ネアちゃんは魚醤?などで味変して茹で肉に挑む。
ひょいとネアの小皿にアルテアの肉をつけられて、自分の皿は誰にも渡さない主義のネアは眉を顰めた。
「美味いな。もう一味足せそうだが」
「すり下ろした大蒜(ニンニク)があると良いです。あまりにも別のお料理になるので、さすがにお店では頼めませんが」
アルテアさんはアルテアさんだからどこか許されるだろうと思っている節がある(謎の魔物の自信)。
「この調味料はいいな。辛味だと、サラフの祖国には色々と調味料があるし」
「ウィリアムさん!私はスパイスに貪欲です。美味しいものがあったら教えて下さい。お給金を注ぎ込みます」
「今度幾つか持って来ようか」
「神様!」
「……お前、俺とウィリアムの扱い方が違くないか?」
「人望という言葉をご存知でしょうか」
「唱歌で魔物を殺せる歌乞いに言われたくない」
「懐かしいようであれば、アルテアさんにだけご披露して差し上げましょう」
「やめろ」
アルテアさんとネアちゃんの関係はいつもワチャワチャしていて、読むのが楽しいです。
ウィリアムが出会ったばかりのつけダレを、他の料理にも汎用していることに気付いた。
気に入るとハマるタイプのようだ
そうなんだ。
「そう言えば、ディノには好きな食べ物などはあるのでしょうか?」
「シルハーンに?」
「あいつは、拘りなんてないだろ」
「ほうら、アルテアさんですよ!」
「やめろ!茹で肉の魔物をこっちに転がすな!」
「うーん、汁っぽいものが好きかもしれないな。グヤーシュとかシチューとか、あまり冒険はしてなかった筈だ」
「まぁ。だから旅先でもグヤーシュ大好きっ子なんですね」
ディノは味覚は保守派。
「変態に正しい甘え方はあるのか?」
「アルテアさんもご経験者ですものね」
「俺のは工夫の範疇だ。本物と一緒にするな」
「ウィリアムさん、………この方は、少しばかり必死過ぎませんか?」
「そうだな。……アルテア、もしかして思ってたより深刻に踏み込んでいるんですか?」
「ウィリアム……」
3人のお食事会はとても楽しそうです。
かつて死地を共にした三人は、定期的に万象の魔物の運用方法を模索する会を開催することを決定している。
多分、アルビクロムで失ったものに相応しい成果を得るまでは、当分続きそうだ。
とは言え、あまりディノに留守番ばかりを強いると毛布妖怪になってしまうので、そこは、ウィリアムが上手く調整をかけてくれた。
しかも開催はその後も当分続く予定。
この定例会は、表向き、ディノへのお土産や、サプライズを持ち帰る為の作戦会議と銘打たれていた。
その効用として、一般的な楽しみを与えて心を健やかにし、厄介な趣味から引き離していこうという趣旨である。
多分。
実際のところはよく分からない。
彼等が、実はただ単純に食事会を楽しんでいるだけなのか、本当にあの夜が三人を死地を共に越えた同志にしてくれたのか。
でもどこかで、ネアは、この二人が大切な魔物を案じてくれる輪になればいいと考えている。
今のリーエンベルクにあるのは、有体に言えばネアの輪だ。
だからいつか、ディノの側で魔物のその事情や事件に関わることがあった時に、彼等と繋がりを持っていることが何かの救いになればいい。
ネアちゃん側としては、ディノを孤立させないための仲間作り。
「最近、ウィリアム達と仲良しだしね」
「ウィリアムさんは今や、私の戦友でもあるので、ああいう方が、ディノの友達でいてくれると嬉しいです」
「……戦友。……アルテアもかい?」
「昨晩は、不適切な発言をされたので、アルテアさんの帽子の中に、茹で肉の魔物を放り込んでおきました。頭髪を毟られれば良いのです」
アルテアさんに対してナニカすることに、ひとかけらの罪悪感もなくやってのけるネアちゃん。
「……アルテアさんは、ムグリスが私に似ていると言うのです」
「………ムグリス?」
「あのふくふくの、丸い妖精が私に似ていると。淑女に向けていい言葉ではないので、ウエストを掴ませて、きちんと括れていることを認識させてやりました。そして報復です!」
「……ネア、確認させるのはやめようか」
「本当は、あの茹で肉の魔物は、お土産に持って帰って来て、ディノにも見せてあげようと思っていたのですよ。しかし、報復に使ってしまいました………」
「………茹で肉の魔物は、見なくてもいいかな。それと、ムグリスに似ていると思ったのは、色合いが似ているからではないのかい?」
「あら。ウィリアムさんが、ディノは茹で肉の魔物なんて見たことがないだろうと仰っていたのですが、会ったことがありましたか?」
「ずっと会わなくてもいいかなと思ってるよ。それと、もう二度とアルテアに腰を掴ませないようにね」
「私の腰が括れていたことに驚きを隠せなかったのか、頭を抱えていました。不当な評価を覆せて、少し晴れやかな気持ちです。……ディノ?…………っ!!」
そしてネアちゃんは、どこか変。
高位の魔物を真顔で困惑させる才能がある。
それにしてもムグリス。
わたしもよりムグリス化しないように、節制せねばなりませんが、またお茶会(あわいの民)あるのよ・・・。普段の日を頑張って節制しなければいけませんね。