「13区の流星雨」より。
その夜、ウィリアムから貰った天体鏡をディノに展開して貰った。
流星雨が設定されているらしく、少し火花が散ると言うので庭で展開することにしたのだが、蓮華の花のような形をした天体鏡に特定の術式を刻むと、ふわりと開いて幾つものパーツが宙に浮かぶ。
とてもわかりやすく、魔法が動いているという感じがして、ネアはわくわくしてしまう。
「ディノ、どんな星空が見られるんでしょう?」
「13区の流星雨が設定されているね」
「13区?」
「だいぶ前に、西方の小さな国が一つ滅びた。その夜に降った流星雨だよ。ウィリアムは、また懐かしいものを選んだね」
「天体鏡」というアイテムはとても心惹かれるアイテムながらも、この回のお話は、すごく辛いお話でした。
「その国の王子と王女に、何度か会ったことがある。二人が子供の頃に襲われていたところに遭遇してしまって、私が助けたことにされていたからね」
「助けてあげたのではなくて?」
「いや、通りがかっただけだ。それで、襲撃をしていた魔物が逃げたんだよ」
「まぁ。ディノのお手柄だったのですね」
「その後、王女の方から何度も呼び出され、暇だったし何度か会いに行った」
「ディノが会いに来てくれたら、きっと嬉しかったでしょう。命の恩人で、こんな綺麗な魔物なんですから」
「ネアは、もう慣れてしまったけどね。……ある夜、その王女に頼まれたんだ。自分の契約の魔物、或いは伴侶になってほしいと」
「なんと、……」
「断ると泣いたしね。なぜか王子にも落ち込まれた。妹は、ずっと私に好意を持っていたのだと言われて」
「仲の良いご兄妹ならそうなりますね。その後はどうなったのですか?」
「彼女は私にその申し出をするにあたり、大国からの縁談を一つ断っていたんだ。それが口実となって、その国は攻め落とされたよ」
「……その国がなくなった後、どう思いましたか?」
「やれやれとは思ったけれど、それくらいかな。……それと、」
「その時に、私には情愛の心がないと言われて、そうなのだろうかと少しだけ考えた」
この一連の流れが淡々としているけれど、悲しかったです。
想いを返してあげられないのに責められる。
あんなに好かれてるんだから、好きになってあげなよ、と言われる。
普通の人でもなかなか難しいと思うのですが。
「どうしても、それでなければ駄目なものがあるんです。その王女様にとって、それはきっとディノだったのでしょう。国や愛する家族を守る為に、あなたを諦めることが出来ないくらい、あなたでなければと思ってしまったんです。それと同時に、彼女のご家族にとっては、それが彼女だったのかもしれません。危うい橋を渡ってでも、その王女様の願いを叶えてあげたいと思った方が多かったのかもしれませんね」
こんなに美しい魔物に出会って恋をしたなら、それはそれは、焦がれる程に甘い苦しみだっただろう。
思い起こす記憶はいつも麗しく、出会えば変わることなくいつだって魔物は美しい。
他の物では代わりにならないと心が叫んでしまったら、破滅への道行きでも手放せないものもある。
例え、自分や誰かを殺すことになったとしても。
魔物の美しさは罪。でも王族ならば、理性大事に、と思ってしまいます。
それはそれとして、天体鏡は素敵アイテムですね。
淡い光を弾けさせた天体鏡が、最初の流星雨を降らせた。
お天気雨の雫のように、きらきらと柔らかな光を煌めかせて落ちてゆく。
やがて星々は空に上がり、本格的な流星雨が流れ出す。
魔術仕掛けの天体鏡
「魔術がないと見れないものだから、また普通の風景とは違う。星屑の雨が降るから、傘を忘れないように」(byウィリアム)