「ご褒美の怪 2」より
「ディノ、髪の毛を掴んでいる場合、これが、ちょん切られたりはしないのでしょうか?」
「君は、短い髪の方が好きかい?」
「いいえ。今のままの方が良いです。ただ、敵がこの中継地点を攻撃しないのかなと思いました」
「私が望まない限り切れないから大丈夫だよ」
「謎のシステムだった……」
背後からちょいちょいと肩を叩かれたので振り返ると、ウィリアムが心持ち深刻な顔をしている。
「魔物の髪はその魔術の質だから、切ると言ったら止めるように」
髪質も器の形
・ウィリアム→とても素直そうな艶さらの直毛
・アルテア→しっかりウェーブした髪
どちらの髪も、宝石を紡いだようにふさふさの柔らかな毛質に見えるが、髪の形状という意味では正反対。
「……なんだ?またろくでもないことを考えているんだろ」
「いえ、魔物さんの髪質は、その魔術の器の形だと前に聞きまして」
「ああ、確かにそう言われているし、厄介な気質という意味では、アルテアは合っているだろうな」
「その通りだったら、こいつとシルハーンの髪質はどうなるんだよ………」
「そういえば、黒煙さんも直毛で謎でしたね…………」
「人間も同じだぞ。魔術汚染で人格が塗り替えられでもしない限りは、髪質の変化はあり得ない」
「そうなると、こちらの世界では、真っ直ぐな髪を薬品で巻き髪に変えたり、その逆のことをしたりするようなお洒落はないのでしょうか?」
髪を変える行為は望ましくない
- 正体を隠す為の擬態ならまだあり得る
- お洒落などの一環で行う髪そのものの形状変化ですら、あまり望ましくない行為
- 本来の毛質から、別の気質や性質を思わせるものへの変化が好まれない
- 直毛で生まれた人が、パーマをかけたいというようなことは歓迎されない
- 幾つもの名前や姿を持って悪さをしているアルテアですら、髪質の変化を必要とする擬態は不愉快
- 階位落ちさせたくない人外者の髪は切らないこと
- 髪の総量を減らすと命や階位を減らす
- 魔術の関係でひと房きり与えるというようなことはあるにはある
ちなみに、ネアちゃんの髪は
- 普通の人間なら、可動域の調整や祝福付与で、髪を伸ばせる
- しかしネアは特殊
- 普通の人間のように髪が伸びることはまずない
- 人間は、魔術階位や可動域の変化が髪の長さに影響する
- ネアは可動域が低すぎるので、一度髪を切ったら、自力で伸ばすのは事実上不可能
- 成長という意味では難しいけれど、損傷の範囲であれば元に戻せる(ディノ補足)
髪質と性格(性質)がリンクしている世界は、見た目が10割な世界なのですね。
わかりやすい。
そして高位の魔物はふさふさなのですね。
悲恋の妖精もネアちゃんによれば
「手放すということは捨てることです。自分の苦痛と天秤にかけて、愛するものを一度捨てたのなら、それはもう諦めるべきだと私は思います」
「お前は、共に滅びることになっても手放さないのか?」
揶揄でもなくただの素朴な質問なので、ネアは短く頷いた。
「私は強欲ですから、手放しませんよ。勿論、忘れてしまいたいという苦しみは誰にだってあります。でも、愛するものの記憶を手放せば、そのものとの縁は切れてしまう。愛するものに対して、どうしてそんな仕打ちが出来るでしょう。……この妖精さんは、愛するものを切り捨てた自分と向き合うしかないと思います」
そっとかがみこんで、拙い刺繍が施されたハンカチを拾い上げる。
子供の手によって刺されたものなのだろう、がたがたの文字で、ジルフへと刺繍されていた。
絵柄でもなく、線で表記される文字を選んだことからして、この少女は刺繍が苦手に違いない。
稚い愛情が、いっぱいに詰まったハンカチだ。
それなのに、このハンカチの持ち主は、もうこれを見ても渡してくれた主人のことは思い出せないのだとしたら、彼女が彼に残した愛情は、いったいどこへ行ってしまうのか。
「……持って行ってあげれば良かったのに。共に滅びるとしても、穏やかに鎮めて過去のものにするとしても、それでも、…………この子も連れて行ってあげれば良かったのに」
ネアちゃんに大事にする要員にされたら、共に居てくれる。心強い。
「………ネアは、私が先に死んだら覚えていてくれる?」
唐突にディノがそんなことを聞いたので、ネアは動揺してしまった。
手にしていたハンカチをぱさりと地面に落とし、憤然として立ち上がる。
「どうしてそんなことを訊くんですか?ディノ、どこか悪いところがあるのですか?!」
鳩羽色の瞳を潤ませて慌ててその胸元に掴みかかると、驚いたディノは、突撃してきたご主人様を抱き上げた。
「違うよ。安心して、ネア。ただ聞いてみただけだから」
「もし悪いところがあるなら、すぐに申し出て下さいね。薬になる妖精や精霊をたくさん捕ってきます」
「うん、ごめんね。だから、不用意に狩りに出る必要はないからね」
「いざとなったら、私の寿命を半分こにしますので、いつでも言って下さいね」
「………ご主人様」
どう考えても、そうそう死にそうにないのだが、ディノがとても嬉しそうなので、他の魔物達は大人しく黙ることにした。
あまり関わって、このよくわからない会話に巻き込まれても堪らない。
ネアは大真面目だが、これはただ魔物が甘えているだけの一場面だ。
空気を読む魔物・・・。
魔物は丈夫で長生きだから、この手の心配をされるのはいつも嬉しそう・・・。
すっかりネアから心配されるの大好きっ子になってしまっていますね。
ネアが大事な魔物を守るよ!!!キリッ!!!
ディノはキュン❤️となる、乙女な構図。
「ところでディノ、妖精さんは逃げてしまったようですよ?」
「え?」
「さっき、あの扉みたいなところから出ていくのが見えました。羽があったので妖精さんだと思います。だから引っ張ったんですよ」
「………では、帰ってもいいのかな?」
「帰れるなら帰りたいですよね。睡眠は削りたくない主義です」
「帰ろうか」
「…………なんだろう、余分に歩いただけでしたね」
「なんで俺を見るんだよ。あの妖精の所為だろうが」
アルテアさんは、そういう要因。
ネアちゃんみたいに、良く食べて、良く眠るを徹底してみたいです。
良く眠る、は、意外と難しい。
割と睡眠を削る傾向になってしまいます。