「誕生日の為に動き出します(本編)」より
「エーダリア様、私達も信仰の魔物さんを捕獲に出たいのですが」
信仰の魔物の失踪により、イブメリアは未だに訪れずにいる。
日付のない日々
- 祭事の魔物の失踪など、このような形で祝祭の運行が止まると、待ち時間としての日付のない日々が続く。
- 例えば、十二月には日付が振られた日が、ネアの生まれ育った世界と全く同じで三十一日ある
- 祝祭の運行が停滞すると、その期間中は日付なしの曜日だけの日が生まれる。
- そのイレギュラーな適用の中でも、更に季節が巻き戻る仕組みは複雑で、四日と五日の合間の日付のない時間が、いつの間にか二日と三日の間になっているというように、じりじりと後退していくのだ。
- つまり、気を抜くと日付の認識すら危うくなるので、国が発表している公式日時の確認はとても大事なことであった。
- なお、これは魔術による観測で厳密に成り立っている。
日付なしの曜日だけの日・・・。なんとも不思議な。
「あまり、日付がない時間は長くない方がいいのですよね?」
「日付というのも、一種の領域だからな。それを得られずに存在する時間は、あわいのようなものだ。ウィーム領では対策を行っているが、それでも、あまり好ましくない影響も出て来る。………とは言え、逆にこのような時期にしか適わないこともあるので、一概に悪いばかりでもない」
暦などの影響を考慮した呪いや障りは、このような時期に鎮められるのだという。
日付のない日々の弊害
- うっかり日付のない日に告白やプロポーズを行なってしまった結果、カレンダー上複雑なことになった人々もいる。
- そのような弊害だけでは済む筈もなく、この期間に生まれたことで、誕生の祝福を正しく得られなくなる子供もいる。
- そのような子供達は、境界のこちら側との縁が薄くなってしまい、あわいの怪物に攫われやすくなるのでとても苦労する。
- そして、魔術的な弊害だけでなく、経済に与えられる打撃も大きくなっていってしまう
- 食品や生花などの損失については、領内の魔術師達が状態保持の魔術をかけてくれたり、代金の保障などをしてくれたりする制度が昔からある。
- いつもは送り火脱走時の為の保険。
- 今回はまさかの信仰にまで適応されることになった。
- その制度も、先々の予定を立てられないという負担までは減らせないので、待ち時間が与える損失は必ずある。
魔物という生き物
- 所詮、魔物は人間とは違う生き物。
- 教会側も、信仰の魔物が逃げ出した理由を、気象予報が外れるくらいの気安さでさらりと明かしてしまった。
- 夏至祭でも、よく夏至の魔物が腹痛で倒れて延期されているらしいと言われる。
- 夏至祭の魔物は、祝祭が近くなると大騒ぎする夏至祭の系譜の仲間達の面倒を見るのが嫌で、ストレス性の腹痛になりがちな繊細な魔物なのだそうだ。
「いいのか?お前の魔物は、信仰と関わるのを嫌がっていただろう?」
「イブメリアが過ぎなければ私の誕生日が来ないことを、すっかり忘れていたようです」
ネアの発言に、部屋の奥の椅子に座っていたディノがびくりと肩を揺らす。
魔物に誕生日を忘れ去られていたネアは、傷心のあまりストライキに入った。
現在、飛び込みと体当たりの、ハードめなご褒美は無期限で差し止め中である。
「誕生日など、ゆっくり待っていても良いのではないか?」
「いえ、初めて、濁った安価な石ころめが誕生石ではない誕生日を過ごすのです。一刻も早く来ていただきたい!」
ネアちゃん、もとの世界の誕生石は気に入らないご様子。
この国の規定の誕生石は、十二月のものが夜霧の結晶石だ。
とても高価で、透明度の高い菫色をしている。
楽しみ過ぎて辛いくらいで、ネアは自分へのご褒美としてその石のブレスレットを注文済みである。
透明度の高い菫色はいいですね。「夜霧の結晶石」という成り立ちも素敵。
ついぎらぎらと目を輝かせてしまい、エーダリアは怯えた表情になった。
「そ、そうか。こちらとしては、捕獲に加わってくれれば有難い」
「ヒルドさんの状況はどうなっているのでしょう?」
「都度、寸前のところで逃げられていてな。殺しても良ければすぐに捕まえられるがどうしますかと、昨晩伝令が来ていた」
「……相当、鬱憤が溜まっていますね」
「そうだ。だから、是非ともヒルドよりも早く捕らえてやってくれ」
ヒルドさん・・・。微笑みながら言ってそうですね。
兄弟紙(魔術道具)
- 使用者以外には無地に見える羊皮紙片。
- かつて五兄弟の大海賊が使っていたもの。
- どんなに離れていても、誰かが記入したり、話しかけたりしたことを全員に共有してくれる。
ヴェルツ
- ヴェルツは、建材の黒大理石の産出地だ。
- 最も暗い夜の来るヴェルツでは、純粋な黒の大理石が産出される。
- 生粋の黒は珍しい為、ヴェルツの黒大理石は各国で重宝されていた。
- また、この大理石は光を吸うことから、貴人の大罪人の牢獄にも使用されている。
- ヴェルツは、四方をその黒大理石が採掘される山で囲まれている。
- 土壌も黒が強く、生い茂る木々も黒みの強い針のようなモミの木ばかり。
- 黒みの建材のほとんどが揃うヴェルツは、この土地の建物の殆どを黒いものに揃えてしまっていた。
- その代わり、どの家々にも壁に手書きでレリーフや柱などが色鮮やかに描かれており、それがこの土地の伝統的な建築手法となっている。
- 夜の気配が強すぎて、雪雲を避けるから雪が降らない(一つの要素が強過ぎると、他の要素を避けてしまう。byディノ)
「騙し絵の域を超えた壁ですね……」
「どうして普通の煉瓦を使わないんだろう」
ディノが首を傾げたのは、漆黒の壁に丁寧に煉瓦を書き込み本物のような陰影までつけてしまった邸宅だ。
「郷土愛ですかね」
「人間って不思議だね……」
信仰の魔物は魔物として認識
- それが故に、いかに信仰とは言え全ての場所に許可なく侵入出来るわけではない。
- いくら教会の施設とは言え、そこはシビア。
擬態もせずに土地を荒らすのは良くない
- 土地が荒れるから
- 土地は無限にある訳ではないし、高位の魔物は特に影響を与え易いから
- あまり我が儘が過ぎると、統括の魔物(現在はアルテアさん)に制裁を受ける
- 領主と統括の魔物、そして土地を治める精霊や妖精が話し合いをして、方針や施策を決める
- ウィームは、冬を司る精霊と、雪を司る竜の王がそれに該当する
冬を司る精霊
- あまり外側には出てこない思念体のような曖昧なものらしい。
- 精霊の中で明確な姿を持つ者には二種類あり、殆どが低階位。
- はっきりとした姿を持たない冬の精霊は、とても高位のもの。
- 会話などは鍋や水盤で話せる(特別な鍋を火にかけて、その鳴り具合で答えを占う)
今日のディノ
- 漆黒のコートを着ている。
- ネアと同じ色の髪色に擬態している
- 濃紺の服を着たネア共々、色彩としては背景に混ざり易い。
- それなのにディノだけ見事に浮かび上がるのは、魔物の色彩の特異さ。
レイラ(信仰の魔物)
- 運に恵まれる魔物
不安を抱えてお邪魔した教会で、ネア達を迎えたのは激しく荒ぶる司祭だった。
イブメリアという一大行事の前で何度も延期され、今回はまさかの当日午前からの延期。
怒りがピークのところで信仰の魔物に出会い、つい荒れ狂ってしまったところ、レイラは逃げ出したそうだ。
何かの壁を乗り越えて荒ぶってしまった人間というのは、魔物からしても恐ろしいものであるらしい。
普段は魔物は畏怖の対象なのにね・・・。
何かの壁を越えると無敵。
「二時間も語ってしまうくらいにとても協力的ですが、追い出した本人なので何の情報も持っていませんでしたね」
「……この手の展開が多いんですよ」
合流したヒルドと共に聴取に当たったが、結果は惨憺たるもので、ヒルドはそう呟いて額に手を当てた。
ある意味国家公務員なので司祭の愚痴めいた報告も無下に出来ず、随分疲れていそうである。
お労しい・・・。