くすまもな日々

「薬の魔物シリーズ」個別包装仕様のファンのブログ

バベルクレア

バベルクレアの夜から」より

 

祝祭に関してましては、有志まとめwikiを見ましょう。

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バベルクレアとは

【冬】の祭り。

イブメリアの前夜祭。12/23に相当

イブメリアの祝祭前の二日ある前夜祭の最初の夜。家の前に祝祭の魔物達を労い、厄災除けを願うリースを飾り、夜には必ず花火をあげる。ウィームの花火のシメはエーダリアによる魔術仕掛けの花火。

 

バベルクレアの花火

「………バベルクレアか」

やっと祝祭の運行が再開したのに何故かエーダリアが項垂れているのは、ウィームのバベルクレアは、夜に花火を打ち上げるのがしきたりだからだ。

  • 古くより王族が魔術に長けていたウィームでは、最後の花火を王族が演出する。
  • その風習は今も引き継がれており、先日のバベルクレアの夜は、エーダリアが見事な花火を演出した。
  • 万華鏡のように幾度も色を変え、最後に薔薇の花を降らせたその花火は近年最高の出来とまで言われている。

「あの花火はとても好評だったと聞きました。どうしてそんなに落ち込んでおられるのですか?」

「……一度きりだから盛り上がるんだ。二度目ともなると、評価が少し落ちる」

エーダリア様の気持ちはわからないでもなく・・・。

「うじうじしていると失敗してしまいますよ?」

「やめてくれ、縁起でもない!」

「でしたら、大らかな気持ちで二度目を楽しんで下さい。もう一度あの美味しいローストビーフも食べれることですし」

「……お前の興味はそこにしか向いてないだろう」

「そんなことはありません。エーダリア様の花火もとても楽しみにしています。あの、最後の明るい菫色と水色のところが綺麗でしたよね」

「そうか!あの紫系統で明るく見せるというところがだな、中々に厄介な術式になっていて…」

うっかり魔術師な上司の変なスイッチを入れてしまったネアは、その後、長時間に渡って花火の解説をされてしまうことになった。

長時間上司の話を聞いてあげたネアは社員の鏡。

「……ご安心下さい。花火について熱く語っていただいたところ、やる気が戻りました」

「申し訳ありません。お手数をおかけしました。エーダリア様は、魔術に関する事に対していささか完璧主義なところがありまして………」

魔術の成就には術師の精神状態も反映されるそうなので、ヒルドは、そんな教え子を心配していたのだろう。

やはりヒルドさんはエーダリア様の良き保護者。

ウィーム領主を再びやる気にしてくれたと感謝されたが、祝祭儀式への参加が免除された結果、明日からは休暇で今夜はローストビーフと花火が控えているネアは、とても優しい気持ちに満ち溢れている。

ネアちゃんの好物がローストビーフと何度も出てくるので、ローストビーフはもともと好きだったけれど、よりいっそう好みの食べ物となりました。

「ゼノ、お出かけですか?」

「うん。夕方までグラストの屋敷に行ってくる。イブメリアで使用人の人達も少し帰省してるし、今なら遊びに行っても平気みたい」

「それは楽しみですね。お家に招待されるなんて、家族のようではありませんか」

「……家族!」

嬉しそうに微笑んで、ゼノーシュはもじもじする。

かわいい・・・。

「ゼノ、クッキーですよ」

「紅茶……」

「紅茶は苦手でしたか?グラストさんがチョコレートクッキーを缶で買うと伺ったので、種類を変えてみました」

「ううん。僕ね、これ好きなんだ」

「良かったです!また差し上げますね」

戦利品のクッキーを五袋持って去って行くクッキーモンスターを見送り、ネアは小さく弾んだ。

以前に一度、オレンジのクッキーを与えたところ、ゼノーシュの反応が芳しくなかったのだ。

それ以来、新作の時は少しはらはらするのだが、今回は合格が出たようだ。

ゼノはオレンジのクッキーはイマイチらしい・・・。

 

「……ディノ、増設工事ですか?」

毛布妖怪の毛布の山には、謎の巨大クッションが増えている。

ディノのクッション

  • 毛皮のカバーをつけた円形のもので、二箇所のタッセルがとてもお洒落。
  • 淡い真珠色に、セージグリーンのタッセルの配色は、ディノによく似合う色合い。

「うん。これがあると、眠らない時も横になれるからね」

「長椅子もありますよ?」

「体が直線になるのは、どうなのかな…………」

「さては、体を伸ばすのが嫌いなのですか?」

「何か抱えてる方がいいかな」

「……抱き枕的な」

今度、寝台に上げる時用に抱き枕を買ってあげよう。

(だから、椅子になるのも好きなのかな?)

単純に変態だからではないのだとすると、あまり厳しくせずに程々に与えてやらないと病むだろう。

ネアは、慎重に観察を続けるという前提で、こちらの可能性も思案しておくことにした。

体が直線になるのは嫌いな魔物。

ご主人様がそんなことを考えている内に、毛布とクッションはうまく融合し、新しい巣が出来上がったようだ。

さすがの色彩感覚で、これだけの雑多さでありながらどこか上品な色合わせである。

巣がさすがの色彩感覚でできあがる。

ディノの現在の巣

  • 毛布のみで移動してきた魔物の巣の移設に際し、何とか床に住むのだけは阻止すべくネアは下に敷くものを探し、異国の寝台だという、膝下くらいの低い台を購入したところ、ディノは喜んでその上に巣作っている。
  • ディノはどうやら、御主人様からの資金援助もあって巣への愛着を深めていたようだ。
  • 毛布が洗濯に出されたり、アルテアに巣を解体されたりもしたので、今はとても厳重な警備が敷かれているらしい。
  • それに気付いた意地悪な人間が巣に手を出すポーズを取ると、悲しそうに震えるので、ついつい遊んでしまうネアは反省していた。

 

「ディノ、今夜はどうしましょう?」

「花火を見る場所かい?ネアの行きたいところでいいよ」

「では、またこの前の屋根の上がいいです!」

「…………二人だから?」

「そうですね、二人でじっくり見ましょう」

「ご主人様!」

ところが、今回のバベルクレアは二人での花火鑑賞とはならなかった。

邪魔が入るのはもはやデフォルト。

「何でいるんだろう」

「ディノ、私を見ないで下さい。呼んでいませんよ」

今夜のリーエンベルクの屋根の上には、魔物の影が二つ増えていた。

ぎりぎりと眉間の皺を深くするネアに、その元凶は赤紫の瞳を細めて愉快そうに笑う。

「前夜祭の花火を、レイラと屋内から見るのは御免だからな」

勝手に増やされた椅子に座っているのは、アルテアだ。

どうやら聖堂にダリルだけを残して逃げ出してきたようなので、明日あたり報復されてしまうだろう。

本日のアルテアさん

  • ネアが初めて見る服装
  • しっとりとした艶感のある青みの深緑のセーターに帽子、乗馬用のチャコールグレーのズボンに編み上げの焦茶のブーツ。
  • 白地に同色の織り模様があるマフラーを首にかけ、洒落者の貴族の休日仕様。

「アルテアさんの服装が、休日の貴族の冬狩り仕様なのは何故でしょう?」

「……………ダリルがドレス姿だからな。並びたくない。あいつの使っている色もなしだ」

しみじみと答える言葉には苦渋が滲むので、無邪気な誰かに、お似合いの二人だとでも言われてしまったのだろう。

それを嫌がってダリルのドレスと揃わない服装に切り替えたようだ。

さすがはダリルさん。

ドレスの色だけで選択の魔物を弱らせ、尚且つ、仕事を投げ出した信仰の魔物をむしゃくしゃさせたのだと思えば、たいへん邪悪な妖精具合である。

ネアは、邪悪な書架妖精を密かにとても尊敬し始めていた。

邪悪な書架妖精・・・。

 

「ウィリアムさんは、どうしてこちらにいらっしゃったのですか?」

アルテアの隣に立っているウィリアムもまた、少し疲れた顔をしていた。

本日のウィリアムさん

  • いつも通りの騎士服姿。
  • よく見ると片袖を捲っていたりと、いかにも仕事中に立ち寄った感が強い。

「アルテアから、大切な用があると呼ばれたんだが、……恐らく、道連れにされたようだな」

「さては、一人で押しかける勇気がなくて、ウィリアムさんを共犯にしたのですね」

この高位の魔物たちは、巻き込み、巻き込まれなおつきあい。

ネアから非難の目を向けられて、アルテアは器用に片眉を持ち上げて微笑む。

「シルハーンが、イブメリアが終わるまでは看守役をしろと、この街に閉じ込めてくれたお陰で楽しみが少ないからな」

「君は統括の魔物だからね。数日くらい貢献してもいいだろう」

「そうですよ、アルテアさん。罪を償うべきです」

さすがの終焉の魔物は、そのネアの言葉がレイラ絡みだけではないと、すぐに見抜いた。

「ネア、アルテアに何かされたのか?」

「蜘蛛の形をした動くお手紙をいただきました。私はそやつに脅かされて転倒し、背中と心に傷を負った次第です」

「わかった。今度、報復しておこう」

「おい、その刑罰として信仰のおもりを引き受けたんだろうが。二重罰則にするなよ」

魔物同志の報復は、人間のレベルではなくてちょっと怖い。

ウィリアムの微笑みが完全に怖い類のものだったので、アルテアは異論を申し立てたが、残念ながら反省の気配が窺えないので、一度きちんと叱られるといい。

微笑みが怖いとか。素敵ですね。

「そもそも、仕事中に強引な理由で呼び出されたんです。椅子くらいは用意して然るべきでは?」

「どうせ、ガゼット周りの新興国で、また死者の行進の見張りをしていただけだろう」

「レイラの面倒も見れないアルテアに、簡単に言われたくないですね」

「ウィリアムさん、こちらに座れますよ?」

「………ウィリアムには狭いと思うよ」

「ディノ、ウィリアムさんは被害者ですよ?」

「ネア、その椅子はシルハーンと座っていてくれ。アルテアには甲斐性がないようだから、座る場所くらい自分でどうにかするよ」

このセリフのやりとりがちょっと楽しい。

そう苦笑したウィリアムは、自分でどこからともなく取り出した椅子に腰掛ける。

アルテアの装飾的な椅子と違い、簡素な木の椅子だ。

ネアとしては逆に、雪の積もった屋根の上で滑らないのかと心配になってしまう。

「……居座るのか」

しかし、ディノの目が虚ろになってしまったので、ネアは慌てて三つ編みを引っ張ることになった。

そしてちょっとディノが可哀想かな。

「ほら、ディノ。最初の花火ですよ」

空いっぱいに、大きな金色の花火が打ち上がる。

「……こういう花火を見たのは初めてだな」

ウィリアムがぽつりと呟く。

「こういう花火、でしょうか?」

「俺が見るのは、革命終わりの簡素な花火や、終戦の記念花火くらいだからな」

ウィリアムから、戦乱や死の影のない祝い事の花火を見るのは初めてだと聞いて、ネアは何とも言えない気持ちになる。

老獪なくせに、彼等はなんて稚いのだろう。

押し掛けてきて一緒に花火を見ようとしているアルテアだって、よく考えれば可愛らしいものだ。

街を明るく照らし上げる花火を見ながら、そんな隣人たちの愛おしさに小さく微笑んだ。

魔物だから、ものすごく長い時間その世界で生きてきてるのに、自分の役割以外の時間は過ごしてきてないご様子。

ネアが来てから、この世界をあらためて楽しむことができてなによりです。

「ポットで持って来ているので、お二人共ホットワインでも飲みますか?なお、カップはご自身で用意して下さいね」

その時、ついついお客を甘やかしてしまったネアは、すっかり臍を曲げた魔物の為に、巣から引き摺り出す儀式を深夜に執り行うことになる。

本日のエーダリア様の最後の花火

  • 即興で薔薇の他に椿の花も降らた。

この年二度目のバベルクレアは喝采と共に幕を下ろした。

よかった!

エーダリア様の花火、見てみたいです。