「真夜中の浴場」より
王族専用の浴場
- リーエンベルクには、王族専用の浴場がある。
- 手入れに時間がかかるので、現在はあまり使っていない
- 時々勝手にお湯が沸いている。
- 内装も全盛期のものになっており、今はくすんでいる夜の結晶石のシャンデリアも、煌々と輝く。
- 王宮に住んでいる亡霊の仕業だとか、諸説ある。
- お湯が沸いている間には楽しく入浴出来る。
- 元々、この浴場は良質な温泉。
- もしお湯が沸いているのを見たら、すかさず入るのが正しい。
- 今はもう、浴場のある棟は王族専用ではない。(byグラスト説明)。
ネアの見た夢
- 王族専用の気まぐれ浴場にお湯がわいていた夢。
- 夢の中のそこは暖かな光に溢れていた。
- 湯気にシャンデリアの光が煌めき、瑠璃色を基調とした虹色の光輪を作る。
- 芳しい百合とオレンジの香り。
- お湯は上等な紅茶のような色をしていた。
夜の結晶石のシャンデリアのある浴場、豪華。
湯気にそのシャンデリアの光が煌めく?
そして芳しい百合とオレンジの香り?
さすがは王族専用!!!
さっと起き上がると、室内履きをひっかけて着替えを取りに行く。
「……ネア?」
真夜中に突然行動を開始したご主人様に、巣の中にいた魔物も顔を出した。
「寝ていて下さいね。浴場にお湯が入っているかもしれないので、もしそうであればお風呂に入ってきます」
「敷地内でも特殊な場所だからね。一緒に行くよ。それに、私は元々そんなに眠らないんだ。ここに来てからは、どうしてだかきちんと眠っているけれど」
不思議そうに言うけれど、それはなぜか喜ばしいことの気がした。
だからネアはディノを見上げて微笑む。
髪がほつれていれば直してやりたいところだが、残念ながら魔物の髪は完璧だ。
というわけでディノも一緒に浴場へ。
こちらでは、共同浴場では水着のようなものを着用して入るので、特に倫理観念が揺らぐようなこともない。
最初はディノが入浴着というものを知らずに四苦八苦したが、何とかエーダリアとヒルドに説明して貰ったのは苦い記憶だ。
入浴着、大事ですね。
お湯は沸いてた。
あの夢は予知夢的なものだったのだろう。
ディノ&ネアが行った時の浴場
- 柔らかな湯気にシャンデリアの虹が煌めき、最盛期の王宮の贅沢さに相応しい素晴らしい空間になっている。
- 活けてある花と入浴剤の香りが入り混じってこの素晴らしい芳香になっているようだ。
- 中央の湯船のところには噴水のような造りがあり、泉の妖精と水竜の彫刻が見事。
- お湯を出しているのは、妖精の水瓶と竜の守る滝の部分から。
- 彫り込まれた沢山の花々は透けるような結晶石の色をのせて、瑞々しい生花にも見える。
- 浴室全体に使われているのは、白大理石に良く似た霧の結晶石。
- お湯の温度は熱過ぎずに丁度いい。
- 立ち上る香りに包まれているので、とても贅沢な気持ちで深呼吸。
- 見上げれば、きらきらとシャンデリアの虹。
- シャンデリアは枝葉と果実を表現した意匠になっており、これもまた狂気的なくらいに手が込んでいる。
- よく見ると、枝葉に蔓葡萄が絡んでいるところもある。
- その部分の結晶石は、葡萄色なのが秀逸。
いや、もう、どなたか視覚化して欲しい。
「このお湯、いい香りがします!」
「薔薇園の地下から沸いている温水だからね」
「じゃあこれは、薔薇の香りでしょうか?もっと複雑な香りがします」
「調香の為に、地下に浸透させる魔術と育てる木を考えたのだろうね。本来は時間のかかる作業だが、魔術に長けた者が多く、祝福が幾つかあれば数年で整う筈だよ」
薔薇園の地下から沸いている温水・・・。
香りのよい温水のために地下に浸透させる木と魔術。
手のひらにすくったお湯の匂いを嗅ぐと、やはりオレンジの香りがした。
柑橘系の果物の木も育てたに違いない。
自然の香りなのだろうなぁと思うと本当に贅沢ですね。
「………もしかしたら、このお湯が時々勝手に沸いているのは、知って欲しいからかもしれませんね」
「知って欲しい?」
「ええ。こんなに素晴らしい浴室があり、それを整えた技量は、住まう方々の誇りだったでしょう。だから、こんな風に使って欲しいのではないでしょうか?」
知って欲しいでしょうとも。
幻の浴場として時々復活するのは、本当に素敵です。
黄金の蛇口を捻って出したお湯を浴びて、身を清めてから浴槽に入った。
その蛇口は見えないような部分にまで繊細な彫り物があり、贅を尽くした宮廷建築の執念を見た気がした。
ウィームのお風呂の風習
- 蒸し風呂の気質に近い王都とは違い、ウィームはしっかりお湯につかる風習の土地。
- 住まいの中にある浴場で入浴着というのはまだ慣れないが、温水プールだと思えばいい。
- かつて、王族達が完全に着衣を脱ぐのは自分の居住棟と浴場だけだったというのは、自衛としての意味もあるのかも。
- ここは、あくまでも王族達の共用大浴場になり、かつてはこういう場所でも、密談や社交の場になった。
ネアはどこかへ飛ばされ気質なので、しっかり入浴着を着ています。
着衣なくどこかに落とされたら、肉体的な損傷以前に女性として心が死ぬ。
未解明の魔術が働く場所なので、警戒するに越したことはない。
魔物は長い髪を上手に結い上げて、顎先までお湯に沈んでいる。
かなり深く浸かるのが、ディノのスタイルだ。
顎先までしっかり浸かるスタイルなんだね・・・。
こうした時にふと、男性としてのただならぬ色香にあてられるので、参ってしまう。
美し過ぎるからこそ妙な生々しさはないが、その美貌故の色香も破壊力が強い。
美しすぎるのはいいことですね。
「のぼせたと言うより、少しだけ異性としての羞恥心に苛まれました。前回は温泉で他にも人がいましたが、今回は二人きりですから」
「……ネア、大胆だね」
「事実の再確認をしただけなのに!」
大胆の使い方。
「さて、さすがにのぼせるので上がりましょうか」
「………もう少し」
「……ディノが長風呂なのを忘れていました」
その後、ネアは一時間近く浴場に拘留された。
ディノは深くお湯に浸かり、尚且つ長風呂の気質。
湯冷めしても嫌なので、先に出て着替えていようと思ったが、あまり離れると、ディノが一緒に出てきてしまいそうで可哀想だ。
こんな真夜中に付き合って貰ったので、是非にゆっくりして欲しい。
優しいご主人様。
何度か出たり入ったりしつつ付き合った結果、ものすごく疲労した。
やっと浴場を出て着替えが終わると、ネアは疲労困憊でふらふらになってしまう。
「……ご主人様はくたくたです」
「ネアも随分と長く入ってたからね。珍しいものだから楽しかったのはわかるけれど、無理しない方が良かったね」
「………解せぬ」
理解しない魔物。
これだけ長くお湯に浸かったのは初めてなので、肌からも百合とオレンジの香りがする。
「同じ香りだね」
幸せそうに微笑んだ魔物に、ご主人様はぎりぎりと軋んだ頷きを返す。
今度浴場にお湯が入ったら、こっそり一人で訪れようと心に誓った。
ディノが幸せそうでなによりです。
百合とオレンジのお湯の香りか。
単体でも素敵な香りですものね。
現世では上手に調香しないと、吸い込みたくなるような入浴剤は難しそうだけれど、ウィームの世界の王族の浴場は本物の樹木と花でできているから、それはそれは素晴らしい香りなのだろうなぁ、羨ましいなって思います。